2026/2/17
特集
はじめに
株式会社良品計画と株式会社JERA、株式会社JERA Crossは、再生可能エネルギーの導入と環境価値の活用を通じた脱炭素の取り組みとして、合同会社MUJI ENERGYを設立しました。
本ケーススタディでは、こうした取り組みの背景やスキーム、そして両社が目指す再生可能エネルギー活用のあり方について紹介します。
新谷 謙太
株式会社JERA Cross 営業本部 部長
日系大手航空会社にてマーケティングに携わった後に、ベイカレント・コンサルティングに参画し、エネルギー業界の戦略企画と施策実行を支援。
JERA /JERA Crossには2024年2月より参画。営業本部 部長。
なぜ良品計画は「発電から関わる」選択をしたのか
プロジェクト概要
企業名:株式会社良品計画
パートナー:株式会社JERA、株式会社JERA Cross
想定削減量:年間約8,000トンのCO₂削減(年間電力使用量の約20%相当)
取り組み:再生可能エネルギー発電事業への参入とバーチャルPPAによる環境価値の獲得
Interview:株式会社良品計画 ソーシャルグッド事業部 再生可能エネルギー開発事業部 課長 長山奨尉氏
2030年、CO₂排出量50%削減 —— 良品計画は、日本政府の方針「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減、さらに50%の高みを目指す」という表明に沿い、この目標を掲げています。しかしその実現に向き合う中で、ある壁に直面していました。
それは、”店舗の約8割をインショップ型店舗が占めている” という構造的な制約です。
独立型店舗であれば、屋根への太陽光パネル設置や電力契約の見直しなど、再エネ転換に向けた選択肢があります。しかしインショップ型店舗では、建物や電力契約の権限が商業施設側にあるため、脱炭素化に取り組める余地が限られてしまいます。
良品計画ソーシャルグッド事業部エネルギー開発事業部の長山氏は、この構造的制約について次のように語ります。
「だからこそ、"選択肢が限られるインショップ型店舗を、どう変えていくのか"。その問いから、私たちの取り組みは始まりました。」

脱炭素化の手段として、外部から環境価値を購入する選択肢があります。非化石証書やグリーン電力証書を調達すれば、数値上の削減効果は得られるが、長山氏が向き合ったのは、良品計画の企業理念そのものでした。
「外部の環境価値を買って終わりでいいのか。良品計画の企業理念から見て、そこに課題を感じていました。」
さらに、太陽光発電そのものに対する社会的な議論も意識。太陽光発電なら何でもいいわけではなく、地域に負担をかけない、本当に良い発電所を作る必要がある。だからこそ ”自分たちで責任を持ちたい” という想いから、発電事業への参入を決断しました。
小売業から発電事業への参入という大きな挑戦。良品計画は当時、発電に関するノウハウや再エネ・脱炭素の専門人材が社内にいない中でのスタートでした。
「最初からいきなり決議を取るのではなく、まずは情報交換や意見交換を重ねながら、議論を深めていきました。そのうえで、 ”自ら発電事業を行う” という基本方針を定め、そこから約1年をかけて事業プランを具体化していきました」
実際には、約2年間、繰り返し経営陣と議論を重ね、経営会議での議論は10数回にのぼったといいます。

脱炭素化の取り組みを検討する中で、当初は「CO₂削減の手段として非化石証書を購入する」という選択肢を検討した。ただ、その方法については、「それだけで本当に十分なのか」という問いが社内で浮かび上がってきたといいます。
「そこで次に出てきたのが、 ”それなら自分たちで発電したい” という案です。正直、そのときの役員の反応は『何を言っているんだ』という感じだったと聞いています(笑) そこからは、すぐに結論を出すのではなく、丁寧な説明と対話を重ねました。」
経済性だけでなく、社会的な価値という視点も大切にしながら、地域にとってどんな影響があるのか —— ネガティブな影響をどれだけ減らせるのか、あるいはどんなポジティブな価値を生み出せるのか。そうした観点で一つひとつ向き合い、理解を深めていきました。
徐々に理解が深まっていく中で、2つの大きな転機がありました。 一つ目は、パートナーとしてJERA、JERA Crossとの協業が決まったことでした。
「信頼できるパートナーと一緒に取り組めると分かったことで、会社を立ち上げることや、自分たちで事業化していくことへの解像度が一気に高まりました」
二つ目は、具体的な数字が出てきたこと。
「数字が出てくると、事業がよりリアルに感じられるようになります。その分、リスクも含めて生々しく見えてきました。そこから、ポジティブな意見もネガティブな意見も含めて、さまざまなコメントをもらいながら、事業企画をブラッシュアップしていくことができました」
プロジェクト開始当初、3社それぞれの役割は明確に定まっていませんでした。
「私自身もジョインした時、まだ決まっていない部分が多々ありました。特に最大の出資者である良品計画として、これだけ出資するけれど何ができるのか。そこがまだ定まっていなかったんです。でも、議論を重ねる中で、各社の強みが自然と見えてきました。」

JERA:発電事業の開発・運営ノウハウ
JERA Cross:電力供給ノウハウ、環境価値の束ね・バーチャルPPA設計
良品計画:発電所の立地選定、地域への副次的価値の創出
「発電や電力供給に関するノウハウは、両社がそれぞれ持っていました。そのうえで良品計画は、 ”どこに何をつくるのか” “そこからどんな副次的な価値を生み出せるのか” といった点にこだわる。そうした役割分担が、自然と形づくられていきました。」
電力供給サービスには、さまざまな選択肢があります。電力そのものは、突き詰めれば “誰が供給しても同じもの” と言えるかもしれません。 それでもなお、JERA Crossを選んだ理由は、どこにあったのでしょうか。
長山氏が評価したのは、担当者一人ひとりの姿勢でした。
「一人ひとりの熱意や思いが、ちゃんと行動力に表れている。そしてそれがきちんと企画に落ちてくるんですよね。」
単に提案書を作るだけでなく、良品計画の理念や課題を深く理解しようとする姿勢。議論を重ねる中で、具体的なプランへと昇華させていく実行力。そうした担当者の本気度が、長山氏の心を動かしたといいます。
また、無印良品の事業を “ウェット” だと表現します。数字やスペックだけでなく、思想や共感を大切にする事業スタイル。JERA Crossは、その部分にフィットしていました。
「電力を供給するのはあくまで結果。そのプロセスで何をするか、しっかりとしたプラン立てに非常に長けていらっしゃるなと思いました。」
電力という商品そのものではなく、どう届けるか、どんな価値を一緒に創るか。そのプロセス設計力が、パートナー選定の決め手となりました。
発電事業への参入は、想定以上の反響を呼びました。一般企業、投資家、再エネ・環境関連業界など、幅広い層から注目を集め、多くのメディアから取材依頼が寄せられたといいます。
「新たなチャレンジとして、ビジネスの領域では非常に好意的な受け止め方をいただいています」
一方で、実際に取り組んでみて見えてきた改善点もあります。小規模分散型というスタイルで始めたものの、長山氏は「まだまだ改善の余地がある」「まだまだやれることがある」と、次のステップを見据えています。
顧客からの両面的な反応
お客様からの反応には、ポジティブな声とネガティブな声の両面があります。良い取り組みとして評価する声がある一方で、「ソーラー」「太陽光発電所」という言葉そのものにネガティブな印象を持つ方もいらっしゃるといいます。 長山氏は、こうした反応から見えてきた課題を率直に語ります。
「太陽光発電や再エネは、プラスの側面だけではないことは十分承知している。だからこそ、遊休地の活用と、景観への配慮、環境破壊をしないというポリシーを掲げ、すべての発電所の候補地に社員自ら足を運んでジャッジしている。なぜ無印良品がこの事業を始めたのか、様々な課題にどう向き合っているのかも、まだまだ伝えきれていない。数字で測れる成果だけでなく、社会との対話を続けていく必要性を感じています。」
良品計画が実践する「地域共生型」太陽光発電の具体的取り組み
MUJI ENERGYは太陽光発電が抱える課題に対して、具体的に以下のような配慮と基準を設けています。

環境負荷の最小化──小規模分散型という選択
MUJI ENERGYが採用したのは、1ヵ所あたりテニスコート約1面分(約350㎡)という小規模分散型発電設備。森林伐採や大規模造成を行わず、環境への負荷を最小限に抑えるためです。
2025年12月末時点で、東北電力エリア6ヵ所、東京電力エリア3ヵ所、中部電力エリア16ヵ所の計25ヵ所で運転を開始。年間想定発電量は2,359MWh、年間想定CO₂削減量は996t-CO₂に達しています。
景観や住環境への配慮
小規模設備により景観への影響を最小化し、周辺の住環境と調和することを目指しています。反射光や騒音などの問題を避け、地域住民の生活の質を損なわない持続可能な発電事業を展開します。
遊休地の有効活用──新たな土地開発は行わない
最も重要な原則の一つが、「新たな土地開発は行わない」というポリシー。耕作放棄地や未利用地など、既存の遊休地のみを活用し、眠っている土地資源に新しい価値を創出しています。
すべての候補地に社員自ら足を運ぶ
そして何より特徴的なのが、発電設備設置予定地へ現地確認を実施し、独自に定めた基準をもとに地域環境や景観保全の観点で問題がないか、ひとつひとつ確認していることです。これは単なる書類審査ではありません。社員が実際に現地に赴き、自らの目で判断する──その徹底した姿勢が、MUJI ENERGYの本気度を物語っています。
独自の調達ガイドラインと3つの柱
MUJI ENERGYは人権尊重および環境配慮の観点から「太陽光発電設備調達ガイドライン」を定め、太陽光パネルおよび関連機器を調達しています。その内容は3つの柱で構成されています。
01. 環境配慮・自然保護
森林伐採や切土・盛土を行わない、希少生物の住処に配慮するなど、独自の開発基準を設け、発電設備周辺の自然環境や住環境への影響最小化を目指しています。
02. 社会的責任・人権配慮
サプライチェーン全体にわたる公平で安全かつ健全な職場環境および自然環境に配慮する責任の基準として「サプライヤー行動規範」を策定。取引先や取引先のサプライチェーンに対し、本行動規範の周知と理解、遵守を要請しています。
03. 持続可能性・循環型社会
事業の全ライフサイクルにわたって環境・社会への責任を果たし、将来世代に負の遺産を残さない持続可能な事業運営を実践。発電設備の設置から運営、廃棄まで一貫した品質管理と透明性の確保に努め、発電設備の稼働終了時における太陽光パネルの適正な廃棄とリサイクルに向けた費用積立、処理体制の整備にも取り組んでいます。
CO₂削減量という数字だけでなく、どのような配慮のもと、どのように作られたクリーンエネルギーなのか。環境価値の創出プロセス全体に責任を持つという姿勢を、丁寧に伝えていく──長山氏・良品計画チームの決意を感じました。
社内では月に1度以上の頻度で、オンライン勉強会やセミナーを通じた情報発信を行っており、最初は驚きの声が多かったそう。
「でも、丁寧に説明して理解が深まると、 “確かに、これって無印がやるべきことだったよね” というポジティブな反応に変わっていきました」
さらに印象的なのは、社員からの具体的な提案が生まれ始めたことです。 たとえば、店舗で廃棄されるガラスを燃焼させると軽石ができるという話。この軽石を太陽光パネルの下に敷き詰めれば、雑草抑制効果が期待できる。良品計画が扱う資材を、発電所の運営に活かせるのではないか —— そんなアイデアが現場から上がってきているといいます。
「各従業員が “そういう取り組みをしているんだ” と他人事ではなく、 “うちも何か関われないかな” という思いで見てくださる。それが本当に嬉しいです。」
CO₂削減という数値目標だけでなく、社員一人ひとりの意識変革にもつながっているようです。
長山氏は、MUJI ENERGYの今後について明確なビジョンを描いています。
「最終的なゴールは、私たちがロールモデルとなって、他社様にも真似していただけるような事業を展開していくことです。」
そのプロセスで重視するのは、発電という行為そのものを超えた価値の創出でした。
「自ら電力を生み出すこと以上に、地域に対してどんな付加価値を生み出せるか。たとえば、日常的・非日常的に私たちの電源を使っていただく。電力を無駄にしない。さらに、循環資源を活用したり、廃棄されるものをなくしていく —— そうした取り組みをロールモデル化していきたいと考えています」
発電所は単なる電力供給の場ではなく、地域との共生、資源循環、そして新しい価値創造の拠点となる。それが、良品計画が目指す未来の姿です。
“どのような企業がこのモデルに向いているのか” と尋ねたところ、長山氏の答えは、多くの企業にとって希望となるものでした。
「個人的には、どんな会社であってもいいと思っています。特定の資材や資源を持っている企業もあれば、そうでない企業もある。でも正直なところ、すべては何かしらの形で繋がっているんです」
電力を使う限り、自分たちで生み出すという選択肢は常にある。自社の事業と何かしらのシナジーを生み出せる可能性、一緒に使える資源がある可能性。そうした視点で考えれば、小売業だけでなく製造業からIT企業まで、業種を問わず幅広く取り組める余地があるといいます。
「発電所を自分たちで運営し、作り、所有する —— 確かにハードルは高いです。私自身もそれを経験してきたので、難しさは十分に理解しています。投資も発生しますし、リスクとリターンもあります。」
それでもなお、踏み出す意味がある。長山氏はそう続けます。
「でも一方で、私たちはこの地球に、日本に住んでいる限り、電力というエネルギーを享受しているわけです。それを自分たちでただ使うだけという選択肢はもちろんありますが、自分たちで生み出すということも、やはり重要なのではないかと思っています。
だからこそ、誰でもいいからやってくださいということではなく、まずは私たちが一つの事例となって、失敗も含めていろんな経験をし、それを発信していきたい。その中で生み出されたいいものを、ぜひ他社様にも真似していただいて、日本全体の脱炭素化に貢献できるような形を一緒に作っていきたいと思っています。」
先駆者としての覚悟と、他社への誠実な呼びかけ。長山氏の言葉には、日本の脱炭素化を本気で前に進めたいという強い思いが込められていました。
▼ この取り組みについてはMUJI ENERGYホームページでも説明されています。
https://www.energy.muji.com/
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