2026/4/23
記事

はじめに
2026年2月28日、米・イスラエルによるイラン攻撃を契機にホルムズ海峡が事実上封鎖され、1か月以上経過した現在も解決の見通しが立っていません。世界の原油・LNG輸送量の約20%が通過するこの海峡の機能停止は、日本向けLNGのスポット価格急騰を引き起こし、燃料費に連動して電力コストが変動する「市場連動型プラン」を採用している企業に深刻な影響を与えています。本記事では、なぜ今この電力プランが危険なのか、そしてリスクをヘッジする具体的な方法を解説します。
新谷 謙太
株式会社JERA Cross コンサルティング本部 部長
日系大手航空会社にてマーケティングに携わった後に、コンサルティング会社でエネルギー業界の戦略企画と施策実行を支援。JERA Crossには2024年2月より参画
企業が契約する電力プランには、大きく分けて「固定型」と「市場連動型」の2種類があります。固定型は契約期間中の電力単価が一定で、事業計画への組み込みが容易です。一方の市場連動型は、電力単価が日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格に連動して変動します。
市場連動型は「市場価格が低いときにコストを抑えられる」というメリットがある反面、燃料価格の急騰や需給の逼迫があればその影響をそのまま受けるという構造的なリスクを抱えています。
比較軸 | 固定型 | 市場連動型 |
電力単価 | 期間中固定 | JEPX価格に連動 |
コスト予測 | しやすい | 困難 |
急騰時の影響 | 受けにくい | 受けやすい |
稟議・予算管理 | しやすい | 難しい |
多拠点一括管理 | しやすい | 難しい |
⚠️ 2026年2月28日以降、ホルムズ海峡は事実上封鎖中。LNGスポット価格は急騰。この影響は今まさに市場連動型プランに大きな影響を与えています。
日本の電力の多くは、LNG(液化天然ガス)や石炭を燃料とする火力発電所が支えています。これらの燃料は海外からの輸入に依存しており、国際市場の価格変動がJEPXスポット価格に直接反映されます。
市場連動型プランを採用している企業は、この価格変動をそのまま電力コストとして受け取ります。平時であれば「安いときに使う」という運用で恩恵を得られますが、地政学リスクによる供給ショックが起きた瞬間、コスト急騰の矢面に立たされます。
ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ全長約160kmの海峡です。世界の原油海上貿易量の約25%、世界のLNG取引量の約20%がこの海峡を通過しています。(出典:米エネルギー情報局 EIA、2024年データ)
2026年2月28日、米・イスラエルによるイラン攻撃を受けてイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言。4週間が経過した2026年3月末時点で、通航隻数は封鎖前比で97%減という事実上の機能停止状態が続いています。(出典:UNCTAD「ホルムズ海峡の混乱:世界の貿易と開発への影響」2026年3月)
この封鎖が日本の電力市場に波及するルートは以下のとおりです。
ホルムズ海峡封鎖 → カタール産LNG供給停止(世界LNGの約20%が消滅) → スポットLNG価格急騰 → JEPX価格上昇 → 市場連動型プランの電力コスト急増
特にLNGはホルムズ海峡の代替輸送ルートが存在しません。原油はサウジアラビア・UAEのパイプラインで一部を迂回させることができますが、LNGはタンカーによる海上輸送しか手段がなく、封鎖が長期化するほど供給不足が深刻化します。(出典:丸紅経済研究所レポート 2026年3月10日)
日本のLNG輸入の大部分はオーストラリアやマレーシアからですが、カタール産の供給停止により世界のLNG需給バランスが崩れ、スポット価格の急騰は日本のLNG輸入コスト全体を押し上げます。その結果として燃料調達コストが上がれば、電力の市場価格も上昇します。(出典:公益財団法人 中東調査会 2026年3月)
市場連動型プランが抱えるリスクをヘッジする手段は複数あります。それぞれのアプローチを整理します。
最も直接的な対策は、電力単価を固定する契約に切り替えることです。固定型は市場価格の急騰から電力コストを切り離せるため、中長期の予算計画が立てやすくなります。ただし既存の市場連動型契約の途中解約には違約金が発生する場合があり、更新のタイミングで検討するのが現実的です。
価格上限を設定した「キャップ型」の市場連動プランを提供している小売電気事業者も存在します。一定水準以上の高騰リスクを限定しながら、市場価格が低い時期のメリットも活かせる設計です。契約変更の柔軟性が固定型より高い場合もあります。
上記2つは既存の電力調達の枠内での調整ですが、PPAは調達構造そのものを変えるアプローチです。再エネ電源を長期固定価格で直接調達することで、化石燃料価格の変動から電力コストを切り離しながら、脱炭素目標も同時に達成できます。
これが今、最も有力な解決策として注目されています。次のセクションで詳しく解説します。
PPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)とは、企業などの需要家が再エネ発電事業者と直接、または小売電気事業者を介して結ぶ長期の電力購入契約です。一般的には契約期間は10〜20年で、この期間中は電力の購入単価が固定されまることが多いです。
発電設備の保有・維持管理は発電事業者が担うため、企業は初期投資を抑えながら再エネ電力を調達できます。化石燃料の価格変動と切り離された電力コストを長期固定しやすいため、ホルムズ海峡封鎖のような地政学リスクに対して構造的な耐性を持ちます。
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種類 | 特徴 | 向いている企業 |
オンサイトPPA | 自社敷地内に設備設置。初期費用ゼロで自家消費できる | 工場・倉庫など屋根や土地がある拠点 |
オフサイトPPA(フィジカル) | 遠隔地の再エネ電源から送電。多拠点を一括でカバーできる | 多拠点展開の小売・サービス業 |
バーチャルPPA | 環境価値(非化石証書)のみ取引。既存の電力契約はそのまま | RE100・Scope2対応を優先したい企業 |
メリット1 電力コストを化石燃料価格から切り離せる
PPAによる再エネ電力の調達価格は、LNGや石炭などの化石燃料価格に左右されにくいという特徴があります。ホルムズ海峡封鎖のような地政学リスクが発生しても、PPA契約の範囲内では電力コストの変動を抑えられるため、事業計画の安定性が格段に高まります。
メリット2 10〜20年の長期固定価格でコストが予測できる
市場連動型が抱える「来月の電力費がいくらになるかわからない」という問題を解消できます。CFO・経営企画が求める中長期の予算管理への組み込みも容易になります。
メリット3 脱炭素目標(Scope2・RE100)を同時に達成できる
PPAで調達した再エネ電力は、Scope2(事業活動での電力消費によるCO2排出量)の削減に直結します。RE100(100%再エネ化)の目標達成手段としても国際的に認められており、ESG評価や取引先からの要求への対応も一括して進めることができます。
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多拠点展開の小売業にとって、拠点ごとに異なる電力契約を管理する手間とコスト格差は大きな課題です。コシダカは東北エリアの「カラオケまねきねこ」22店舗を束ね、JERA Crossとのオフサイト型コーポレートPPAにより再エネ電力を一括導入しました。
市場連動型から固定単価のPPAに切り替えることで、店舗ごとの電力コストのばらつきを解消し、燃料費変動の影響を受けない調達構造を構築しています。(出典:JERA Cross公式サイト)
2025年2月より、JERAが保有する関東エリア42地点の太陽光発電所からの電力と環境価値をJERA Crossがアグリゲーターとして束ね、JR東日本商事を通じてアトレ大井町・ルミネ横浜へ供給を開始しました。駅ビルという大規模施設への複数再エネ電源の組み合わせ供給はJR東日本グループ初の取り組みです。(出典:JERAプレスリリース 2025年1月)
良品計画はJERAとともにMUJI ENERGYを設立し太陽光発電所を共同開発。JERA Crossがアグリゲーターとして電力をJEPXに供給しながら、環境価値は良品計画が全量取得するバーチャルPPAの枠組みを構築しました。既存のPPA事業者から環境価値を買うのではなく、発電から関わることで追加性を担保し、調達コストの構造ごと変えるアプローチです。(出典:良品計画・JERA・JERA Crossプレスリリース 2025年6月25日)
ホルムズ海峡封鎖が続く今この瞬間も、市場連動型プランを採用している企業の電力コストは上昇し続けています。現在の電力契約のリスク診断から、PPAへの切り替えシミュレーション、多拠点への一括導入設計まで、JERA Crossがご支援いたします。
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